全員の声を紡いで“イズム”を策定。フルリモート組織が、ボトムアップ型で共通言語をつくる意味

美容業界に特化した社労士サービスを展開する、いちじく社会保険労務士法人さま。フルリモートの体制で事業を拡大するなか、少人数の頃はあうんの呼吸で通じ合えていた価値観が、人が増え多様な価値観が加わる中で伝わりにくくなり、小さなすれ違いや離職なども出てきたといいます。

ツナグtobeでは、まず全従業員へのMBTI®を活用した研修を通じて相互理解の土台をつくり、そのうえで月1回・全5回のオリジナルワークショップにより「いちじくイズム」(私たちの願い・私たちの使命・いちじくの軸)を全員の声を紡ぐ形で策定。リモート組織ならではの雑談や関係性づくりも織り込みながら、言葉を紡いできました。

今回は、依頼の背景から策定プロセス、いま感じている手応えまでを、いちじく社会保険労務士法人さまに伺いました。

【課題】
・全員フルリモートのため、従業員同士の相互理解を深めにくい
・少人数の頃は言語化せずとも、あうんの呼吸で自然と通じ合えていた価値観が、人が増え多様な価値観が加わる中で、言語化する必要性を感じるようになった
【対策】
・全従業員へのMBTI®を活用した研修で、お互いのタイプ理解を促進
・「いちじくイズム」の策定に向けたオリジナルワークショップ(3時間×全5回)
【効果】
・「いちじくイズム」を言語化。最終案の発表時には、涙するメンバーも
・日常のやり取りや会議で、浸透に向けた社内施策が自発的に動き始めた

石川 博基 
株式会社ツナグtobe代表。参画型人事コンサルティングを得意としており、企業の人事課題に対して全方位からアプローチできることに強みを持つ。

岡島 典子さん
いちじく社会保険労務士法人 代表。

※「MBTI®(Myers-Briggs Type Indicator)」とは?
心理学者C.G.jungの心理学的類型論をベースに、Katharine C.Briggsとその娘Isabel B.Myersという親娘によって開発された、世界50カ国以上で活用されている国際規格に基づいた性格検査。
「興味関心の方向(外向・内向)」「ものの見方(感覚・直観)」、「判断のしかた(思考・感情)」、「外界への接し方(判断的態度・知覚的態度)」の4つの指標によって、性格を16種類のタイプに分類し、一人ひとりが、自分の特徴や強み、人と人の違いを理解し、自分をより活かすための座標軸として用いることを最大の目的として、活用されている。

「暗黙の了解」が通じなくなった。人数が増えたリモート組織の課題

岡島さん:
もともと10年ほど前にコーチングを学んでいて、「何をするにしても、自分の潜在意識にある、本当にやりたいこと・やりたくないことなど、深層にある想いが大事」とはずっと思っていました。改めて、自分が人を雇う立場になり、まずは自分がどうしたいのかを壁打ちしたいと思って、コーチを探したときに見つけたのが石川さんです。

石川さんがいいなと思ったのは、横に寄り添いつつ、大事なときにはグッと引っ張ってくれそうだと感じたこと。はじめは仕事だけでなく、家族やプライベートのことも含めて伴走してもらっていました。次第に仕事や会社について話す割合が増える中で、私とのコーチングだけでなく、もっと深く事務所に関わってほしいという私の思いと、石川さんからの提案が合致し、人事支援をお願いすることになりました。

──当時、いちじくではどのような課題を抱えていましたか?

岡島さん:
まだ少人数だった頃は、お互いが大事にしているものが言わずともなんとなく伝わっていました。『この人はこういう思いで動いてくれている』と、あえて言語化しなくても理解し合えていたんです。でも、ありがたいことに人が増え、20人を超えそうなタイミングで、小さなトラブルが出てくるようになりました。良くない理由での離職や、お客様への説明不足によるボタンの掛け違い、スタッフ同士のちょっとしたすれ違い…。

一方で、中心で頑張ってくれているメンバーとは、「大事にしている価値観は一緒」だという感覚もありました。私たちが大切にしている価値観や、何のために仕事をするのかという使命・目的、目指す方向性を言語化できれば、『こういうとき、私たちらしい判断は何か』を考える共通の軸になるのではないかと思いました。

まずはお互いを知る。フルリモートだからこそ全員でMBTI®を

──「いちじくイズム」の言語化に入る前に、MBTI®を活用した研修を実施された背景を教えてください。

石川:
いちじくさんはフルリモートで、直接会ったことがないメンバーもいると伺いました。「いちじくイズム」を言語化するにも、まずはお互いを知るベースをつくることが大切だと考え、MBTI®を活用した研修をご提案しました。

岡島さん:
メンバーも、もともと16タイプ性格診断(16Personalities)を知っていて、自己紹介に自分のタイプを書いている人も多かったので、「むしろやりたい!」という声も多く挙がりました。

石川:
「16Personalities」と「MBTI®」は別物です、と言うとびっくりされるんですが(笑)、すでに知ってもらっているぶん、入りやすさがありました。一方で、誤って認識されている部分は丁寧に違いをお話ししながら進めました。

岡島さん:
自分のタイプがしっくりこないときは別タイプの体験をして、違いを体験できるのがすごく良かったです。新しく入ってくれたメンバーも「受けたい」と言ってくれていて、今後も新しく入ったメンバーを含め、お互いを知るためのいちじくのスタンダードの一つにしていきたいと思っています。

──実施後、コミュニケーションに変化はありましたか?

岡島さん:
以前は、自分の意見をはっきりと伝えてくるメンバーに対して、その伝え方を強く感じることもありましたが、タイプの特徴を知ると、本人に悪気はなく、物事の捉え方がまったく違うんだとわかりました。そうすると逆に愛くるしいというか、愛情が深まった気がしますね。

石川:
リモート組織では、対面のような自然発生的な雑談や、業務外でお互いを知る機会が生まれにくく、接点が短時間になりがちです。だからこそ、相手の好き嫌いなどがその短時間で印象付けられてしまうのはもったいない。お互いのタイプを理解したうえでコミュニケーションを取れることには大きな意味があります。いちじくさんはフラットな組織なので、幹部だけでなく全員が受けることが大切だと考えていました。

加えて、業務領域によってタイプ分布が違ったのも面白かったですね。具体的な文字情報を正しく読み取ることを大事にするタイプの方が比較的多い一方で、抽象的な表現や決め切りすぎない進め方を好む方もいる。そのズレが全員の受講で見える化したので、お互いに意識しながらコミュニケーションを取っていただけているのだと思います。

全員の声を紡いで「いちじくイズム」を策定。全5回のオリジナルワークショップを設計

──「いちじくイズム」の策定は、どのように進めたのでしょうか?

石川:
岡島さんの強いご意思で、「全員の声を紡いで作りたい」というこだわりがありました。お忙しいなか、20名全員が集まれるのはリモートで月に1回だけ。それでも全員の声を紡ぐ形でやりますか、と確認したうえで、オンラインで3時間×全5回のワークショップを設計しました。

Day.1はセットアップです。「イズムを言語化するのはなぜか」を岡島さんから語ってもらい、言語化する意義をみんなで考え、当事者意識を持ってもらう。あわせて、ワークショップのグランドルールもみんなで作りました。

Day.2は歴史を紐解く回。「なぜいちじくにジョインしたのか」「いちじくらしいと感じた瞬間はいつか」など、個人と組織の過去から“らしさ”を言語化していきます。

Day.3は未来から逆算する回。これからの時代の社労士法人の在り方、これから育む必要のある“らしさ”、時代が変わっても失いたくないものを考えました。

そして、Day.1からDay.3までで集めた素材を、Day.4までのあいだに岡島さんと何度もミーティングして原案に統合していきました。

Day.4で原案をお披露目し、想いとともに紹介したうえで、ざっくばらんに質問・意見をもらいます。それを踏まえて磨き上げ、Day.5で最終案をご報告する——という流れで進めていきました。

岡島さん:
ワークショップの中身はほぼお任せでした。「いちじくイズムを形にしたい」という想いだけは伝え、みんなの意思を大事にしたいという前提のなかで、最初に私自身の熱い想いも石川さんには受け取ってもらっていました。

関係を育む目的も。リモート組織に合わせた場づくりのこだわり

──ワークショップの設計で、特に意識した点はありますか?

石川:
全員の声を拾える状態をつくること。それから、オンライン組織では対面時の自然発生的な雑談が生まれにくいので、アイスブレイクで雑談の時間をつくったり、Zoomの表示名の末尾に趣味や特技を書いてもらって雑談のネタをちりばめたりしました。Day.2で個人の歴史を紐解く時間を作ったのも、それぞれの関係性を育むためです。

一方で、AIによって代替可能な領域もある業態です。未来の会社の姿を考えることで自分たちの業務を見直してみるという視座を上げる時間もあえて組み込みました。少しチャレンジングでしたが、未来のいちじくをつくっていく中心メンバーとなる皆さんの育成視点でも意味があると思っていました。

ワークショップ前には、5〜6名に個別インタビューも実施しています。「なぜいちじくに入ったのか」「“らしさ”を感じるのはどこか」「変わらないでほしい“らしさ”はどこか」など。回答の傾向を見ながら設問や設計に活かしました。

オンライン上で共同編集できるホワイトボードツール「Miro」とZoomのブレイクアウトルームを使って、毎回メンバーをシャッフルしながら進めました。「私はファシリテーターではなく、場を耕す人。主役は皆さんです」と毎回マインドセットし、グランドルールも毎回確認しました。少人数にしたことで会話が生まれやすくなり、各グループごとに自然と引っ張ってくれる人も現れましたね。

Day.5に最終案を共有したときには涙するメンバーもいました。これまでさまざまな理念発表の機会に立ち会ってきましたが、従業員が涙する場面は初めてでしたね。

岡島さん:
自然発生的な雑談が少ない環境だからこそ、3〜4人のグループができると自然と会話が生まれて楽しそうでした。月1回というペースは、いちじくとしてもちょうど良かったと思います。次回までにそれぞれが考えたり、咀嚼したりする時間が持てたのも良かったです。

石川:
関係性を育むことも大きな目的だったので、定期的に続けられることには意味があったと思います。どうしても期間が空いてしまうので、前回のMiroを事前に見てもらい、アイスブレイクで振り返る時間は入れつつ、途中で入社される方もいるので、前回参加をしていなくても成立する設計にしました。全員が毎回、新鮮に楽しめることを意識していました。

メンバーの皆さんからは「自分たちの言葉が反映されている」という声をたくさんいただきました。付箋一枚一枚に記された言葉を丁寧に汲み取ろうとした時間が伝わったからこそ、あの涙につながったのだと思います。全員の声を紡いで言語化していくのは大変ですが、大きな意味があると思います。

「自分たちの声が入っている」。全員の声を紡いで「いちじくイズム」を策定する意義

──ワークショップを振り返ってみて、いかがでしたか?

岡島さん:
いちじくイズムを考えること自体が、『いちじくで何を成し遂げたいのか』『自分自身は人生で何を成し遂げたいのか』を考えるきっかけになりました。いちじくイズムを考える機会がなければ、ここまで立ち止まって考えることはなかったと思います。

最終案を共有したとき、涙してくれるメンバーがいたことがとても印象に残っています。

石川:
1番大変だったのは、最後にいちじくイズムに落とし込むときの細かい言語化です。岡島さんは比較的抽象的な表現が得意なタイプである一方、メンバーには実務寄り、具体的な表現を好むタイプの方が多い。色を失わずに違うタイプにも伝わる言葉に変換していくことを意識していました。

岡島さん:
私が表現したい概念そのものが抽象的で、言語化することが難しいものでした。その抽象的な概念に込めた意図を残しながら、誤解なく伝わる言葉にし、さらにみんなの想いを紡いでいく、その橋渡しを石川さんがしてくれました。読点の位置や改行まで、深夜に連絡してもラリーが速くて、隣で会話しているようなスピード感で進めてくれました。本当にいちじくの一員のような愛を持ってこだわってくれているのが伝わって、「石川さんとじゃないと絶対できなかった」と思います。

ここからは、浸透と血肉にしていくフェーズです。みんなで集まったタイミングでテーマを一つずつ具体に落とし込んだり、雑談用のLINEで「これ、いちじくらしさだね」と話したり。言いづらいことをあえて共有してくれたスタッフが「イズムがあったから連絡しました」と言ってくれたりもしました。

LINEスタンプを作ろう、日めくりカレンダーを作ろう、という話も出ています。トップダウンだと「会社から言われてやる」になりがちですが、みんなの声が入ったからこそ、「せっかく作ったから使いたい」と思ってくれるんだと思います。

いちじくイズムは言語化して終わりではありません。むしろ、ここからです。

会社の成長とともに、これからもみんなで育てていくものだと思っています。

MVVやイズムは従業員にとっての道しるべ。影響の輪が広がるきっかけにも

──改めて、企業にとってMVVやイズムを策定することには、どのような意味があるとお考えですか?

石川:
経営者にとっては、言語化のプロセスで「なぜこの会社をやっているのか」「どう生きていきたいのか」が鋭くなり、登る山が明確になる。従業員にとっては道しるべです。この船はどこへ向かうのか、どう振る舞えばいいのかがわかり、目指す先に自分も行きたいと思えれば、内発的動機が高まります。

社外に対しては、大事にしていることを発信することで、合わないお客様は自然とスクリーニングされ、共感するお客様が集まり、届けたいことがより鋭く届く。最終的には影響の輪が広がっていきます。

──今後、ツナグtobeと取り組んでいきたいことはありますか?

岡島さん:
中途入社の方へのMBTI®の提供は引き続きお願いしたいです。イズムの浸透は社内で進めつつ、幹部向けにMBTI®を使ったコミュニケーションのレクチャーも予定しています。人が増えたり、幹部が増えたりしたときに「こういう教育を受けたい」と声が挙がったらすぐにお願いしたいですね。

レスポンスの速さも、まるで社員のようなスタンスで考えてくださるところも、本当にありがたいなと思っています。人に関することはツナグtobeへ110番、だと思っています。

──本日は貴重なお話をありがとうございました。